目指したテレビ局や映画会社は、ことごとく不採用。行き詰まった末に送った放送作家の募集で、初めてリサーチャーという存在を知る。ほぼすべての番組を裏で支えるこの仕事に、いつしか自分の適性を見出していった。
Q&A インタビュー
現在のお仕事について教えてください
現在の職業としては、メインはテレビやYouTube、ネット番組などのリサーチャーという仕事をしています。あとは、多少英語ができるので、英語と日本語の翻訳事業もやっています。今はそこまでやっているわけではないのですが、ナレーション台本を書いたり、構成作家的な仕事、例えばYouTubeのナレーション台本を書いたりといったことをしていた時期もありましたし、記事執筆をしていた時期もありました。最近は英語の力を活かして、外国人とのコミュニケーションの中で、ガイドの仕事や展示会の手伝いなどもちょこちょことやっていて、フリーランスでずっとやらせていただいている、という感じですね。
現在の働き方になった経緯は
興味本位もありましたし、生活の問題もありました。なりゆきというか、これをやっていかないとお金に困るから、という事情があって、こうやって続けていったら、いつの間にかこういう形になっていった、という方が近いかもしれないですね。
リサーチャーとはどんな仕事ですか
テレビ番組は、ドラマであれ、バラエティーであれ、情報番組であれ、ニュースであれ、ほぼすべてにリサーチャーという存在がいるんですね。バラエティー番組で例えると分かりやすいのですが、よく街ぶらをするロケ番組がありますよね。そこで芸能人がラーメン屋やグルメのお店に入るシーンがあると思います。それは事前にもちろん取材許可を取っているのですが、「誰々さんのよく行くラーメン屋」や「よく行く洋食のお店」、あるいは「この街のおすすめのグルメ」といったものは、基本的にリサーチャーが探しています。プロデューサーやディレクターが「この街でおすすめのラーメン屋」といったお題を発注してきて、それを調べていくつか出し、その中で取材許可を取れたものに行く、という流れになったりするんですよ。これは例えば、テレビ番組に専門家の方が出てきてコメントを話すこともありますよね。ニュース番組などで、そういったときのコメンテーターを探す仕事も来ます。そうしたものをネットで調べたり、時々書籍を読んだり、図書館に行って調べたりしてまとめ、ディレクターやプロデューサーに送るという、大元のことをやっているんです。その情報から、ディレクターさんや作家さんが台本を考えたり、企画を詰めたりという形になっていくんですね。そういうことをリサーチャーとしてやっていて、それがほぼ全ての番組に実は存在している、という形なんです。
リサーチャーになった経緯を聞かせてください
大学院時代に就職先がなくて、テレビ局や映画会社、結構名の知れた映像製作会社などを目指していたのですが、ことごとく落ちてしまって、どうしようかなと思っていたときに、ネットでたまたま、少し興味もあったのですが、放送作家を募集している事務所を見つけたんですね。大学院2年生の夏ぐらいにそこへ履歴書を送らせていただいたら、面接に来てと言われ、面接を受けたら合格したんです。そこで初めて、リサーチャーという存在を知りました。放送作家の下積みとしてリサーチャーという仕事があるんです。リサーチャーとしていろんな情報を出すことで、「この番組にはこれが求められる」「こういうセンスが求められる」という感度をつかんでいく。それをリサーチャー時代にみんな経験して、企画書を出していって放送作家になる、というパターンが多いのですが、その一方で、リサーチを専門的にやる会社や人も存在するんですね。僕はその事務所でリサーチャーという存在を知り、最初は放送作家を目指していたのですが、リサーチャーの方が向いているのかなという部分が出てきて。今はそんなにこだわっているわけではないのですが、リサーチャーをメインにやりつつ、時々作家っぽい仕事が来たらそちらもやる、というハイブリッドな形でやっています。
この仕事で難しいのはどんな点でしょう
ドキュメンタリーや再現ドラマの番組で言えば、何がプロデューサーやディレクターに刺さるのかを考えるのが、すごく大変だったりしますね。ディレクターもプロデューサーも人によって好みが違うので、何が好きかは異なるのですが、だいたいその番組の中でベースとするもの、これが大事です。再現ドラマの番組なら、世界のどれだけ驚けるかという部分が大事だったりするので、その驚きに自分がどれだけフォーカスできるか、どれだけプロデューサーさんやディレクターさんの好みに合ったものを出せるか。その好みも、視聴率や世間の流れ、今こういうのが番組で受けている、ということに結構左右されるので、そこに刺さるものを出すのが大変ですよね。しかも、プロデューサーやディレクターに刺さったからいいわけではないんです。彼らの考え方が視聴者の求めているものと合っていないこともあるので、どちらかというと視聴者を見なければいけない。最終的には視聴者を見ないといけないのですが、その視聴者に届けるために、まず関門としてディレクターとプロデューサーがいるので、そこを突破しないといけない。だから、自分の中では「視聴者にはこっちの方が受ける」と思っていても、それだとプロデューサーとディレクターを通過しないから、まずは彼らに合わせてみる、ということもあります。そうしてやってみて、「正直これはだめだったね」となり、自分の中で「ほら見たことか」と思うときも正直あるのですが、そういうときは、その後は自分のネタや自分の思っていることが採用されやすくなったりもします。そういった部分のさじ加減、どこに向けて何を刺すのか、ということがすごく大変だったりします。
やっていてよかったと思う瞬間は
自分の出したネタや企画が放送されたときですね。正直、誰も気づかないし、僕が裏でそういうネタを提案してはめ込んでいることは誰も気づかないのですが、それが全国ネットのテレビでオンエアされていて、芸能人の方がそれを見てリアクションしていたり、自分の出した企画をもとに作られた再現ドラマが放送されたりすると、心の中でガッツポーズを決めたりします。そういうときはネットやSNSもチェックして、反応が良かったりするとすごく嬉しいですね。視聴率も出るものなので、単純に10%とすると、日本人の十分の一が見ている計算になります。自分の出した企画がそれだけ多くの人に見られているんだと思うと、自分で自分のことを誇らしく感じて気持ちよくなる。それが、僕の中で一番アドレナリンというか、ドーパミンが出る瞬間だったりしますね。誰も気づかないんですけど。
仕事の面白さはどこにありますか
いろんな物事に詳しくなれる、という部分がありますね。いろんな番組の依頼が来るのですが、グルメや投資、怖い話など、さまざまな情報が入ってきます。そういったものに、いっちょかみではありますが詳しくなれるので、おのずと世界情勢を知れたり、「今、国内でこんなものが流行っている」「ここにいろんな問題がある」といったことに詳しくなれる。それが面白さだったりしますね。
プレッシャーを感じるのはどんなときか
自分の出したネタや企画がハマらない時期が長く続いたときは、結構プレッシャーを感じますね。フリーランスは、いわばいつでも切れる存在だと思うんですよ。成果が出なかったら切られる存在なので。僕も今は16年くらいフリーランスをやっていますが、そういうことは何度も経験しています。なかなかオンエアにつながるネタを出せずに、「もういいや」と切られたこともあったので。1か月くらい自分のネタがオンエアされていないなと思うと、フリーランスとしては「契約は大丈夫かな」と思ったりしてしまうので、そこがプレッシャーを感じるときはありますね。成果を出していかないといる意味がないですし、自分としても、成果を出していないのにずっとやっているのは忍びないなと思うので。クライアントの方は気にしていないかもしれませんが、実際に何度か切られることを経験しているので、あまり続けてオンエアに出ていないと、自分の中で勝手にプレッシャーを感じるときはあります。
仕事と私生活はどう分けていますか
あまり切り分けていないかもしれないですね、正直言うと。ワークアズライフというつもりは全然ないのですが、基本的には、昼ぐらいに起きて、ご飯を食べて、家や図書館で仕事を始めて、空き時間で雑務や家事をこなし、また朝方まで仕事をして、また寝る、という生活をしています。それを週7日ずっとやっているので。どこかへ行く用事ができたとき、例えば美容系のクリニックに行きたいとか、服を買いに行きたいというときは、「今日は土曜日だから、この時間は外に出て、帰ってきたらやろう」という形にします。基本的には空き時間をどうにか作ってやっている感じで、そこまで分けていないですね。分けるのが得意ではなくて、土日休みと決められると、僕にはちょっと無理なんです。
いつまで働き続けたいですか
仕事をしていない自分の姿が想像できないので、できるなら死ぬまで現役でいたいな、という思いがあります。みんな、歳を取ったら引退したら、ということを考えると思うのですが、僕は引退する必要がないし、そもそも引退しなくていい仕事なので、できる限りずっと続けたい。何かしらできることがあるのなら、リサーチャーでなくても、翻訳でなくても、何かしら続けていきたいなと思いますし、その方が生き生きと生きられるんじゃないかなと思うので。そういった部分では、死ぬまでそうやっていくかもしれないですね。
これからの人生をどのように考えていますか
変わらずやっている可能性もありつつ、全く別のことをしているかもしれません。ただ、勉強するなら勉強する、働くなら働く、ということはちゃんとやっていると思います。そこは、いい意味であまり決めていない感じですね。僕は逆算をしないんですよ。人生を叶える上で、みんな目標から、叶えた姿から逆算していく、と皆さんよくおっしゃると思いますし、僕も考えてみたことはあるのですが、それは自分には向いていないし、今の自分が思う範囲の逆算が果たして通用するのか、とも思うんです。もっと視野を広げたときに、別のやり方、別のたどり着き方があると思うので。だから僕は逆算をせずに、悪く言えば行き当たりばったり、よく言えば柔軟に「これをやってみよう」と動いてきました。今までの人生もそうで、放送作家になろうと思ったときも、「仕事先がないからどうしよう、じゃあ送ってみよう」で成れたり、そこでリサーチャーの仕事を振られて今リサーチャーをやっていたり。仕事がなくなってきたから英語を勉強してみようと思ったら翻訳につながり、翻訳につながったらガイドの仕事が来た、という具合に、たどり着いた先でどんどん何か変化が起きる、という方が僕は好きなんです。5年後こうなりたい、10年後こうなりたいとイメージを持ったとしても、もうそうはならないので。5年前の自分も、今こんなことをしているとは思っていなかったですし。だから今は、逆に変化を楽しみながら生きたいなと思っています。
フリーランスを目指す人へ伝えたいことは
フリーランスになりたい動機は、やはり自由に働きたい、めちゃくちゃ稼ぎたい、やりがいが欲しい、自己承認欲求を満たしたい、自由にかっこよく生きたい、といったところにあると思うのですが、それは結構甘い考えかな、と僕は思います。自由はないし、僕はすごく週7日働いていますし、収入もこうなったりするので。めちゃめちゃ稼げるかというと、業種にもよると思いますが、そんなに多くはないと思います。だからこそ、淡々と、自分が破滅しない程度に、でも一生懸命働かなければいけないし、一発逆転みたいなことは絶対に狙わない方がいいな、と思います。やはり、一つひとつ小さいことをやっていって、実績を作り、人との信頼を得ていく。いきなり100万とかを目指すのではなく、細く長く続けていくと徐々に上手くいく、というのがフリーランスなので。見てくれの派手さや「稼げる」といったものに憧れると足をすくわれてしまうから、長く続けるためにはどうしたらいいか、ということを意識しながらやっていくのが、すごく大事かなと僕は思っています。